大切な作品を守り、空間と調和させる


ラーソン・ジュールLarson Juhl

ラーソンジュールニッポン

神奈川県は藤沢市にある、額縁メーカーです。
神奈川にある理由としては、首都圏に近く、東京港や横浜港からもアクセスしやすいなど、
物流が充実しているからです。そのため短納期対応がしっかりしていています。

元々は1800年代の終わりに、アメリカ西海岸で創業した額縁工房からスタートした会社です。
アメリカはもともと銘木と呼ばれる質の良い木材の産地であり、家具や額縁の生産にはうってつけでした。

現在でもほとんどの加工工程に職人の手作業が含まれています。
やがて世界15カ国に拠点を持ち、自社工場と販売拠点を設ける国際企業となりました。
1997年に、日本法人ラーソンジュールニッポンが設立されました。


素材と技法Materials and Techniques

モールディングとは

日本の工房では海外で作られた(※)モールディングを在庫し、1点1点注文されたサイズにカットして額縁の形に組み立てる、カスタムフレーム(特注オーダーフレーム)製造を行っています。

モールディングってなに?

本来は建築や家具などに施される縁どりのことです。家屋でいうと、壁や床・壁と天井のつなぎ目などの接合部に、模様の入った縁があると思います。これをモールディングといいます。

額のフレームには一定の連続した凹凸模様や曲線・装飾(華やかな模様のレリーフなど)がありますが、元々は一本の長い棹(さお)になっています。これをカットして四辺を繋ぎ合わせ、四角いフレームが作られます。この棒状の部材のことを、額縁でいうところのモールディングと呼びます。日本の工房ではモールディング自体を作っていません。例えば、世界遺産の街チェスキークルムロフにあるチェコ工場では、元々木材の産地に近く、丸太を丸々製材できます。デザインから箔貼りや塗装まで一貫して作られます。海外で製造し、日本で組むという形です。

フィンガージョイント

丸太からまるごと切って一本の木材をとったのではなく、実は短く加工された角材をたくさん組み合わせて一本の木材を構成しています。両端に細かな切り込みを入れた30cmくらいの長さの角材を3m程の長さに繋げます。まるでおもちゃの線路を繋げるようなこの加工は、接合部の形状からフィンガージョイントと呼ばれます。フシ穴など、木材の使えない部分を取り除きながら接いでいくことで、品質的に安定し、無駄な廃材をほとんど出すことなく作ることができます。

木材は最後までムダにせず

木材を使うとなると環境への影響を考えてしまいますが、ラーソンジュールの自社工場でも環境に配慮した生産活動を実施しています。木材は、きちんと管理されている森林由来のものです。加工の際にどうしても出てくる木屑なども。木材の水分量を調整するための乾燥室(オーブン)の燃料にしたり、固形燃料に加工して近隣の別の工場に販売したりもしています。


額ができるまでMaking of Items

850種類ものモールディングで、作品のイメージに幅広く対応できることがラーソンジュールの強みです。よく見ると超有名アニメのシーンを切り取ったミニチュアの額装。工房スタッフが趣味で製作したそうです。

営業部長の栗原さん(左)、営業の笹木さん(中央)企画部の座間さんと副工房長の増田さん、センター長の宮澤さんに、製造の流れの順番に工房をガイドしていただきます。

モールディングの在庫・管理

工房に入るとすぐに、モールディングの在庫場。
約2~3mもの長さのある部材の為、直立で保管されています。

モールディングには全て品番が割り振られています。このフレームの切れ端が、その品番のモールディングのデザインを表しています。

次の作業場へ移動するために使われるキャリーです。
ラーソンジュールの工房では様々な形状のモールディングが使われていますが、油絵用・水彩用という風な分類の仕方はしていません。

モールディングのカット

モールディングをカットしていきます。

端の断面が斜めになっているのがわかります。
フレームの断面をくっつけることでピタッと合うようになっています。

モールディングをカットする機械です。
長い棒状の素材なので、横から横へ滑らせながらカットします。

機械に設置されているモニターからは
加工されているモールディングの種類が表示されています。

モールディングの組み立て作業

次はカットしたモールディングを組立てていきます。
まずは断面にボンドを塗ります。

次にこのようなV字型の機械に、2本のフレームを合わせます。フレーム角が上から押さえられた後、ガチャンという音とともに、フレームが固定されました。フレームサイズが大きくなると、フラフープみたいな状態で作業していきます。

フレームが接着されるのは、機械の台の下からV型の釘が打ち込まれるからです。

V型の釘はこのように、直角になっています。

V型の釘を打ち込んで固定した後の、フレーム裏面。

固定した後、ボンドのはみ出しをチェックしてコーナーのとがりに少しヤスリがけをします。

フレームの仕上げの確認

組んだフレームはもう一度人の目でしっかりと確認し、例えば色が欠けているところなど細かい部分を補彩していきます。

特に組んだばかりのフレームの角の部分は、色が無い部分が見えてることがあるので、よく見て補修していきます。これはマーカーで修正していますね。

裏板・アクリル板の加工

フレームの他にも、アクリル板や裏板などの部材も全て、この工房で行います。この機械が、平たい部材をカットするものです。アクリルでも裏板でも平たい物はなんでも切ります。

カットする機械の後ろには、部材が保管されています。アクリル板・裏板や、額内部の隙間を埋めるためのスチレンボードや、中性合紙なんかもあります。

これは裏板。

アクリル板と裏板、セットする額ごとに加工指示書で分けて置いてあります。この後、組み立てたフレームと合流して、一組の額になっていくという形になります。

箱も作る

ラーソンジュールでは額を入れる箱までも、ここで作成されています。外注にしてしまうとその分納期がかかってしまうためです。箱を組み立てるために折り目をつけます。折り目は全て機械でつけます。

切込みを入れた角にグルーガンで糊をつけ、洗濯バサミで固定します。これで額を入れる箱が完成です。

裏板・アクリル板・外箱が完成すると、加工指示書と一緒に一つにまとめられます。

フレームの仕上げ

フレームや裏板は木地なので、その裏側は木目が丸見えです。なのでお客様のご指定で、緑色のテープを裏側に張り込みます。このことを「裏仕上げ」と呼びます。額の裏側も美しく仕上げる意味もありますが、木のアクが出てきても後ろに染み出すことが無いようにするためです。裏板も基本ベニヤ板を使っていて、同じくアクが出ることがありますので、片面だけシートが貼られています。これを「青紙ベニヤ」と呼んでいます。

トンボ(作品や裏板が落ちないように止める金具)や紐を通す吊金具を取り付けて完成です。
メジャーや定規で、取り付ける位置を測っています。

以上の工程を経た額は、裏板やアクリル・外箱と対面し、
ようやく一つの商品として完成します。

入荷されたモールディングはまず品質チェックをされる方がお一人いらっしゃいます。

工房の入り口に立ち、フレームの見本(マスターサンプル)を現物を見比べながら、一本一本チェックするのです。あまりにも風合いが違えば、どういった差があるのかを伝えて、すぐに海外に送り直すそうです。

モールディングチェック担当の方が必ず全て見て判断をされます。これもクオリティUPのためです。

柄の風合いの捉え方は人それぞれなので、100%という答えはないのかもしれませんが、こうしてきちんと1本ずつ確認して、製造元やお客様にちゃんと伝えるところは伝えるという姿勢がラーソンジュールの良さなのです。

大切なものを永く保存するために

ここまで額が出来上がるまでをご紹介しました。額装は作品の見栄えを良くするのはもちろんですが、外からの衝撃やダメージ要素から守る役割もあります。こちらの工房では保存額装の素材一式を取り扱っております。代表的なものをご紹介します。

アルファマット

額装用のマット。100種類以上もの色展開があり、弊社でもよく使われます。色がたくさんあるだけではなく、作品を永続的に良い状態に保つ素材が使われています。100%バージンアルファセルロース(作品に悪影響を与える物質を除いたパルプ)が原料で、空気中にはびこる悪性ガスを吸着し、作品を守ります。

アクリル・ガラス

外部からの光から出る紫外線を99%カットするアクリルです。紫外線は作品を退色させる原因になります。
普通のアクリルやガラスは、周りの景色が反射して写ってしまいますが、このガラスは低反射。額装してみると一見ガラスが入っているのがわからなくなるぐらい、非常に透明度の高い素材です。紫外線カット率は通常のアクリルと同じくらい70%ほどです。

低反射であり、かつ紫外線をほぼカットするという万能の素材。美術館の作品などに使われます。こういった作品を長く良い状態にカバーする素材は売り上げも伸びているとのことです。

保存箱

永く大切に保存する物は作品だけでなく、資料や本・立体物など実に様々な形態であることも多くあります。そういった様々な要望に応えるため、工房で作られているものに保存箱・ケースをフルオーダーで制作されています。

箱の大きさ、形状など様々な種類のオーダーがあります。まずはお客様とデザインを相談し、形を決め図面を作成します。

箱を作る機械は直線・円・曲線などを刃を入れ替えながらスイスイカットしていきます。見ていて気持ちいいほどです。

カットしたものは手作業で組み立てられていきます。これは箱状のものですが、ほかにも引き出しのような形や、封筒など平らなものも作成できます。こういった保存箱などは、図書館や資料館などに引き合いが多いとのこと。国内で組み立てられるという点も強みです。

取材中、以前弊社で納品していただいた商品のことについて相談したところ、工房の皆さんが集まってきて、その場で様々な意見と対応策が言い交わされました。このように様々な場面で柔軟に対応されているところに、ラーソンジュールの真摯さを感じました。

リサイクル

このように製造過程でどうしても様々な端材が出てきます。紙やマット類などは基本的に産廃に出してリサイクル。モールディングの余りは小さくカットして組み立て、ミニ額として販売するなど、工夫されています


あとがきAfterword

作品や記念品といった想い入れのある品があってこそ、額装が成立します。
出来上がった品は自分の為でもあり、他者へ差し上げるものでもあります。
どちらも特別なものとして扱うという点に変わりはないでしょう。

額縁はインテリア

額縁は歴史上もともとは家具としての意味合いが強く、
部屋の空間に調和するように作られてきました。ラーソンジュールニッポンのInstagram。
人々のライフスタイルに豊かさを広げるためとのことで、
実際に空間に額を飾ったときの雰囲気を見せる写真などが投稿されています。
投稿写真には、ハウススタジオでカメラマンが撮影したものもあります。

今回は額縁をテーマに、ラーソンジュールニッポンを訪ねました。
お忙しい中ご対応頂き、厚く御礼申し上げます。
たくさんのモールディングと短納期対応で、弊社でもご注文が安定して多いです。
額の注文を受ける際、よほどでない限りお客様側からのメーカー指定を受けることはほぼありません。

大概はフレームのコーナーサンプルとマットを作品にあわせてみてシミュレートし、
イメージが合えばそれでいきましょうという感じです。
きちんと考え抜かれた額装は、中の作品の保存性を段違いに高めます。
もちろん昨今では額装をしないという選択を取る方々も多くいますが、作品を他者に販売すると
そこからは商品となり、品質に対しての責任が伴います。
作者と小売店が良い関係を持ち、臨機応変に提案できる必要があると私は感じています。