長く、深く愛さ続ける、その理由を求めて


マルマンについてAbout Maruman

マルマン株式会社について

誰でも一度は見たことがある、そんなスケッチブック&クロッキー帳を
製造しているのがマルマン株式会社の生産グループである宮崎マルマン株式会社です。
まずは、マルマン株式会社とそこで生み出されるスケッチブック&クロッキー帳シリーズの
誕生までのストーリーを覗いてみましょう。

紙の品質が決まるまで

1920年(⼤正9年)創業 2019年現在で99年目を迎えます。創業当初から学童⽤スケッチブックを⽣産してきました。スケッチブックは主に官公私⽴中学校への納品がほとんどだったそうです。戦争で⼀度は事業休⽌となりましたが、戦後まもなく株式会社丸万商店として事業を再開、スケッチブックに加えてクロッキー帳の⽣産もスタートさせます。1950年、紙のエキスパートであった前川⽒が紙の開発に携わるようになります。マルマン製品の紙の品質がこのとき決まったといっても過⾔ではありません。

デザインの決定とリング製本

1954年に現在もロングセラーである図案シリーズのデザインが決定します。1958年に図案シリーズの製品が完成します。ちなみに東京タワーと同時期に完成しました。同年、リング製本に使われるドイツ製の機械を導⼊します。以前は糊付けで製本していましたが、中⾝がバラバラになるという問題がありました。しかし、この機械の導入によりそうした問題が解消されました。以降、製本において脱落(中⾝が抜け落ちる)に関するクレームは現在に至るまで無いそうです。1973年 宮崎マルマン株式会社の⼯場建⽴に着⼿、1974年 宮崎マルマン株式会社設⽴、稼働を開始します。

クロッキー紙の
編み目ができる理由

クロッキー帳の紙でクリーム⾊をしているものがありますが、よく⾒ると、和紙の漉き⽬のようなものがあります。このクリームクロッキー紙は、実際には⼿で漉いている訳ではありません。機械で紙を⽣産する際に、紙につくもので、簀の目(すのめ)模様の⾵合いのある紙に仕上がります。紙についた模様が、デッサンする際のガイドになるため、学校での美術の授業ではもちろん、創作でのラフ描きなど、多くのデザイナー、クリエイターに⾧年使われています。昔⾵の⾵合いを再現したエンボス加⼯、それが漉き⽬の正体です。

アンチークレイドシリーズの
紙には特徴があります。

こちらはマルマンのクロッキーシリーズで、アンチークレイドと呼ばれる商品です。この商品には「ANTIQUE LAID PAPER(アンチークレイドペーパー)=古典的な簀の目入りの紙」が使用されています。普通のクロッキー紙と比べ、簀の目の出るヨコの線の間隔が詰まって本数が増え、タテの糸目の線と線の間隔が広くあけられています。素描の描き込みに耐えうるよう、紙質も硬目の仕上がりです。描いたときに鉛筆の引っ掛かりが強くなるように作られています。⾊が濃く⾒えるのは黒鉛が削れて消耗度が⾼くなるからです。⽊炭や鉛筆でヌードデッサンやクロッキーを⽇課とする⽅々に⾧く愛されています。

クロッキー帳の表紙は
なぜクラフト紙?

マルマン社の前会⾧がアメリカに渡った時のこと。某有名社のコーラの瓶がパッケージされていた箱が、クラフトで作られていたのを⾒たのがきっかけで、それから素材を探したとされます。素地の⾵合いは現在でも⼈気が⾼く、⽂具のラインアップにも採⽤されてきています。クラフトの表紙というだけでオシャレ感が増しますね。

教育現場の変化、求められる品質

美術の授業時間はどんどん短くなっています。それでも商品に必ず求められるのは、⽣徒さんが時間内に描き終え、完結できるという事。例えば専⾨家クラスの⽔彩紙を使ってしまうと渇きが遅く、いつまでも終わりません。しかし品質を下げるのはダメ、ほどよい品質を求められています。紙の厚み・シボ(表⾯の⾵合い)・質感、それらがうまく合わさって適正な価格が維持できるか、メーカーは常に思考を重ねています。

うれしいミシン⽬

マルマンの⽂具シリーズには、紙にミシン⽬が⼊っているノートがあります。
このミシン⽬はとても細かく、普通にページをめくっただけでは⾃然に破れることはなく、
紙を強く引っ張るだけなら、リングの部分から破れます。
ミシン⽬の端から「切り取ろう」と思って初めてきれいに切ることができます。
後程説明しますが、これらのミシン⽬は紙の印刷と同時に加工されます。
⽂具だけでなく、最近ではクロッキー帳やスケッチブックにもこうしたミシン⽬を採⽤している会社が多くみられます。
こういった細かな配慮は、使う側にとってはとても嬉しいものです。


マルマンへの旅路Road to Maruman

夏も真っ盛りの8⽉に、マルマンのスケッチブック&クロッキー帳を生産している
宮崎マルマン株式会社のある宮崎県へと向かいました。
⼤阪国際空港から宮崎ブーケンビリア空港までおよそ1時間30分ほど。
到着したときはすでに夜でしたが、空港の⼊口には背の⾼いヤシの⽊が出迎えてくれました。
事前に聞いてはいましたが、さっそくの南国感です。

次の朝、マルマン株式会社で営業をされている、
杉⼭さんにご案内いただき⽇南市にある⼯場へと向かいます。
⾞に乗せていただき、海沿いの国道を南下していきます。

筆者、海の景⾊が⼤好きなので、あまりの美しさにもう⾔葉がでません。
景⾊が活き活きとしていました。
海岸にはところどころ、洗濯板のように段々となっている岩場が⾒られます。
これは「⿁の洗濯板」と呼ばれ、⾧い時間をかけて波が作り出した⾃然の造形物です。

⾞を⾛っていると、材⽊を加⼯する⼤きな⼯場などが点在しています。
話を聞くと、昔から地の利を⽣かした海上物流があったため、
この⽇南という地域には規模の⼤きな産業が活かされているということです。

道中、少し時間があったので、鵜戸神宮(うどじんぐう)というところに⽴ち寄りました。
海のすぐそば、崖の上に作られたとても解放感のある神宮です。
縁結びや安産・⼦宝にご利益のあるところで、 若い⽅々もとても多くこられていました。

お昼過ぎに、宮崎マルマン株式会社に到着しました。
⼯場の⼊口やシャッターにはお馴染みの図案シリーズのロゴが描かれています。

⼯場の周りは、緑豊かな⾃然の⾵景が⼀⾯に広がっています。
内部は⾮常に広く、どこまでが⼯場の端なのかが全然わからない程でした。敷地は三千坪以上もあります。

早速、⼯場⾧の井上さんにご挨拶。⾒学のガイドもすべて井上さんがしてくださいます。
この取材の時は、ちょうど2019年のダイアリーの製造ピークが終わったところだったようです。

宮崎⼯場は1973年に⼯事着⼿され、以後マルマンのスケッチブック・⽂具シリーズの
すべての⼆次加⼯(紙⾃体は製紙会社からの仕⼊れなので、製本や印刷などの加⼯をする)を
こちらの⼯場でされています。全国では他に相模⼯場がありますが、こちらは特殊なオーダーの注⽂が主なので、
宮崎マルマンはマルマン製品の製造の⼼臓部と⾔えるでしょう。
また環境にも配慮がされており、氷蓄熱空調システムを採⽤しています。

若い⽅々も多く働いておられました。
近年はシルバー⼈材の⽅々が10名ほどいらっしゃいますが、繁忙期には30名程増員されるそうです。
私たちの想像を超える程、⼤量の発注が来ることもあるとのこと。
実に幅広い年齢層の⽅々がいらっしゃいました。
割と若い年代の⽅も、地元に戻って就職されるケースも多いようです。


製品ができるまでMaking of Items

それでは、ここからいよいよ⼯場⾒学が始まります。
工場ではスケッチブック・クロッキー帳・ノート・ルーズリーフなどが製造されています。
幸運なことに、ほぼすべての製品の⼯程をみることができましたので、
惜しみなく、ここではご紹介していきたいと思います。
マルマンさんという会社の魅⼒をマルッとお伝えできるはず。

紙の断裁

⼯場⾒学に⼊ってまず真っ先に⽬にしたのは、紙の断裁機です。仕⼊れ来た紙を商品に使われるサイズにカットしていきます。

紙は量も⼤きさもあるので、すべて機械で作業しますが全⾃動というわけにはいかず、刃を使うので危険も伴います。やはりそこは⼈間の⽬で確認ながら進めていきます。

こちらは断裁された紙です。
断面がシャキッとしていて気持ち良い。

コイルについて

スケッチブック&クロッキー帳は、主にシングルコイルとダブルコイルで製本されています。昔は糊綴じが主でしたが、中⾝が脱落する問題があった為、現在ではコイルが主流です。

コイルは鉄製で⽇本と中国から仕⼊れています。仕入れた状態のままだと⼀本の鉄線なので、機械でコイル状に加⼯していきます。

コイル状に加⼯後、巻き取られます。
こちらは出来上がったコイル。

こちらは「アートスパイラル」というスケッチブックのシリーズのコイル部分ですが、⾊違いのコイルを使っているのが特徴的です。店頭で並んでても目を惹くデザインです。

こちらはクロッキー帳のコイル部分。表紙の背部分中央に折り⽬があり、リングが外に⾶び出さないようにできているんですね。この仕組みのおかげで、鞄の中で引っ掛かるということがない、素晴らしい工夫ですね。

表紙の糊付け

こちらはアートスパイラルの表紙に使わる紙です。表紙は強度がないといけないので、芯にボール紙を使い、その上から包むように貼り込みます。

こちらは表紙の接着に使われる糊を管理する機械です。貼り込むのは糊ですが、使われるのはグルー(膠)です。

膠は体質が変化するので、⾼温すぎても低温すぎてもダメ、温度管理が⼤事だということです。

表紙の箔押し

表紙に箔押し加⼯を施すところです。オリジナル商品やノベルティーなどによく利⽤されています。作成した原版(⾦属の板)が表紙に押されます。この時に熱が加わり、エンボスがかかります。⾦銀など定番なものはもちろん、顔料を使って違う⾊を箔押しすることもできます。こういった加⼯も、同じ⼯場内で⾏うことができます。よく、シールの上からこすると下に⾊が転写されるものがあると思いますが、それの⼤掛かりなものと思ってくもらえればイメージしやすいかもしれません。

⾦⾊の帯の2019という数字が⾒えます。これは⼿帳の表紙などでよく⾒かける⾦⾊の箔押し、それに使われる箔のシールのようなものです。

なんと!昔に作られた画箋堂オリジナルスケッチブック(⾮売品)の箔押し原版を発見しました!このように全国から依頼されたオーダーの版下がたくさん保管されています。

学校⽤のオリジナルスケッチブックを作りたいという相談は、毎年たくさん来ているとのことです。画箋堂でもお客様からのお問い合わせをよく受けますので、ぜひ⼀度お気軽にご相談を。ちなみに版は使えば使うほど摩耗していきます。その時はまた版を新たに作ってもらうのです。

トムソン抜き

トムソン加⼯とは、紙などを複雑な形に切り抜きたい時に、あらかじめ型を作っておいて、機械でもって打ち抜くことを指します。こちらにはダイアリーに使われる表紙の紙が積まれています。よく⾒ると真ん中には背表紙に当たる折り⽬がついています。この折り⽬も、機械で付けられています。

トムソン加⼯を施した紙を、⼈の⼿によって⼀枚ずつ切り抜き部分で抜き取っていきます。きれいに抜かれた後の端切れがたくさん。

糊付け

スケッチブックだけでなく、ルーズリーフなどの⽂具類も同じ工場内で生産されています。ルーズリーフは背の部分を糊付けして留めます。こちらは、天糊付けをする機械。

少し⾒えづらいですが、束になったルーズリーフの紙が⼀旦揃えられて、上側⾯に糊を塗るという作業工程です。この時はまだ表紙がありません。どこの部分で糊が塗られているかというと・・・

今度はこの機械を下から覗いたアングルです。⽩いローラーが左右に動いていますが、実はこれで下から糊を塗っているのです。その後、商品の表紙がセットされ、⼀緒に糊付けされて完成です。

糊付けが完了したルーズリーフが積まれていきます。きっと皆さんも⼀度は⾒たことある製品なのではないでしょうか。

ちなみにこの鉄格⼦みたいに細い棒が並んでいるこの機械。この時は稼働してませんでしたが、これでルーズリーフのリング⽳が空けられます。

ルーズリーフが出て来たので、もう⼀つ関連した⼯程をご紹介します。⼀度は⾒たことがあるかもしれませんが、タグがついているルーズリーフが⾊別に並んでいます。

この機械を稼働させると、先ほど⾊別に分けられていたルーズリーフの紙が、綺麗に⾃動で揃えられていきます。

⾊のタグをつけるのも機械でされます。リングで破れないように、⽳をPPで補強することも⼤切な作業です。

印刷とミシン目

巨⼤な紙のロールがセットされているこの機械は、ノートの罫線などを印刷していくものです。企業秘密な部分があるのですべてをご紹介することはできませんが、この機械で印刷と、ミシン⽬を同時に⼊れることができます。

ミシン⽬はてっきり別の機械で打ち抜きをするものと思っていましたが、それだと加⼯費が⾼くなってしまうのだそうで、印刷と同時に⾏うことでコストを抑えています。ローラー状の原紙がそのまま流れていき印刷され、同時にミシン⽬を⼊れるというのは驚きです。それにしても巨⼤なロール原紙です。

スケッチブックのリング綴じ

様々なスケッチブックの製造に対応するため、リング綴じ作業をする機械がいくつかありました。こちらの機械では左から右へ⾃動的に流れていき、リング綴じがされている様⼦がみえます。

最後の⽅で余分なリングをカットして完成です。

こちらは別のスケッチブックのリング綴じ、図案シリーズです。ちなみに別製でサイズが特殊なブック商品も出てきます。そういう時も、ワイヤーをカットして先っちょを折り曲げることで、様々なケースにも対応できます。

オリーブシリーズのリング綴じ

お馴染みの、オリーブシリーズの表紙が⾒えます。こちらの機械では、オリーブシリーズやヴィフアールの中でも⼤きいサイズ(B3クラスの)の為のリング綴じ機です。

サイズが⼤きなものは⾃動で⾏なわず、⼿動で⾏われます。このセクションでの作業は、⾧年務めていらっしゃるベテランスタッフが担当されているそうです。

図案シリーズの糊付けと断裁

図案シリーズには、天糊になっているスケッチブックもあります。

この機械はそれを加⼯するところです。⼀冊づつ加⼯するのではなく連ねてから糊付け加⼯をします。機械に通されて糊付けとテープが貼られます。

機械で黒テープが接着されます。床に黒テープが置いてあります。
テープ・糊付けが完了したら裁断します。

品質管理の徹底と作業の合理化

今までご紹介した製造の機械には、間違えた物が紛れ込まないかエラー管理をきちんとされてきます。画像検査装置がついているのです。⼀周回って⾒学しただけでも数えきれない程の機械設備がありましたが、なかには「これとこの機械は同じ作業内容では?」というのもありました。

ここにも理由があり、例え⼀つの機械が悪くなっても、別のもので代⽤すればリスクを回避できるような体制がが整えられています。最悪の場合、相模の⼯場でも同じ作業をすることができます。そのため⽣産の継続性が強いというのもマルマンの強みです。リング綴じする前に、あらかじめ中紙や表紙などをきちんと揃えた物が⽤意されます。整理させて間紙を乗せるまでもロボットが作業をしています。出来上がったスケッチブックを、互い違いに積み重ねて40冊になったら梱包するとか、その間に汚れや不良があれば弾かれます。そういった作業も⾏なっています。

図案シリーズは
60周年のロングセラー

美術に限らずクロッキー帳やスクラップブックに、
絵を書いたりメモを書き込んだりと、幅広く使われている図案シリーズ。
この製品こそがマルマンの歴史そのもの、と⾔っても過⾔ではありません。

中⾝に画⽤紙が使われていますが、じつはそこまで⾼級なものではありません。
しかし程よく厚みがあるので、シワが寄りにくく、いかなる描画材料にも対応できる。
この「程よさ」が⾧く愛されてきた理由ではないでしょうか。

表紙の深い緑⾊と黄⾊のコントラストは強いイメージを持ちますが、
主張しすぎるという訳でもなく、やはり主役は皆さんがこれから描かれる
その中⾝だという企業のメッセージを感じます。

このシリーズはノベルティやタイアップ商品として幅広い業界で利⽤されています。
こちらの箔押しされたスケッチブック(宮崎のゆるキャラ「みやざき⽝」)は
⼩学⽣が⼯場⾒学に来た時にお⼟産でプレゼントしたものだそうです。
他にも企業とのタイアップで作られたコラボのスケッチブックなど、印象的な表紙のイメージと
組み合わさって、より話題性の⾼いシリーズとなっているのだと思います。


あとがきAfterwords

今回は画材の中でも基本とも⾔える
クロッキー帳とスケッチブックの⽼舗メーカー、マルマン株式会社へ⾒学させて頂きました。
お忙しい中ご対応下さり、本当にありがとうございました。
美術の現場だけでなく、様々な環境でマルマン製品は使われています。
⾧年培ってきた⽣産⼒と対応⼒の凄さがそれを物語っていると、
⼯場を⾒学して改めて思いました。

お客様側からしても⽇常使う物でありますから、
商品のブランド⼒に信頼を置きたいもの。愛され続けるのは並⼤抵のことではありません。
時代のニーズに合わせて少しづつ改良を重ね、
体制を⾒直して、現在のマルマン株式会社は成り⽴っていると感じました。

取材中に「AI」についてのことがありました。
これまで画材図録の取材で様々なところへ⾏き、製造模様を⾒学してきました。
機械化を推し進めてより品質と⽣産性を向上させるというところもあれば、
⼀つ⼀つに時間がかかるが全て⼿作業で作る、というところもありました。
⽣産効率の差はあるかもしれませんが、どの商品を⾒ても
そこには作り⼿の⼿垢というか、あたたかさを感じるなあと思います。

私は思うのですが、どのメーカーにしても常にユーザーに歩み寄るために、
⾃社の中でどの部分を時代とニーズに合わせられるのか、その姿勢は共通して持たれています。
それは商品に使われる素材・原料であったり、⽣産ライン、輸送、様々な要素があると思いますが、
最終的に⼀番⼤事なのは、必ず⼈間の⽬が通っているという点です。
⼈間が物を作るとき、完璧なものを作れるようで、その中にちょっとした愛嬌や妥協さがどうしても表れてきます。
そういう「隙」の部分が実は商品としての魅⼒になっているのでは、、、とふと考えたりもしました。