和筆で描く似顔絵 総合学園ヒューマンアカデミー京都校を訪ねて

scroll

講義の概要

10月3日 月曜日、四条通り沿いにある「総合学園ヒューマンアカデミー京都校」さんを訪ねました。
京都校にはマンガ・イラストカレッジがあり、その中でデッサンや発想学など基礎から勉強する科目があります。
以前よりこちらのコースでは、弊社の中里製の和筆を使って下さっているのですが、マンガやイラストの作業の
中で、和筆をどのように使用されているか?なぜ水彩筆ではなく和筆なのか?ということが気になっていました。
そこで授業を見学させて頂こうと思い、この度お邪魔させてもらうことになりました。

  • 取材にご協力下さったのは、田邊泰 先生と、学生さん有志3名です。普段の授業の流れそのままに、実習を進めながら色々とお話を伺うことにします。

  • 今回使用する画材は、透明水彩絵具と和筆、そしてドーサが引いてある色紙で、田邊先生の似顔絵を描くという内容。まずは似顔絵の描き方・捉え方の説明からです。

人の顔を見る時に第一印象としてまず見るのは「目」。
顔を描く際にはどこをきちっと仕上げるべきか、要所を押さえることが重要だということ。
目の表情ひとつにしても、上瞼・下瞼のどちらが手前にきているか・眼球の白目部分に対して
黒目のバランスはどのくらいか、切れ方がどうなっているかなど、観察すべき点はたくさんあります。
そして似顔絵は雰囲気を捉える表現なので、顔の特徴を考えることも重要です。

学生さんがじっと田邊先生の顔を観察し、どういった特徴があるかを考えた後、早速実習に入っていきます。

和筆を用いる意義

描き手の意思に呼応する性質

顔を描くということで、つい輪郭線を先行して意識しがちですが、田邊先生はまず線ではなく、面で塗っていきながら形を整えるように指導します。和筆の水含みの良さ・色を重ねていくのに、柔らかな毛の質感は最適で、濡れたときに毛先がシュッとまとまることも良い筆の条件です。さらにここで目を見張ったのは、毛先そのものの形を変えることにより、様々な描き方を自在に操れるということ。

例えば隈取筆は通常ぼかしに使われますが、毛先を布などで広げると、平筆のように幅を塗ることができます。広げた毛先の水分を少し取り、パサパサの状態で色を塗れば髪の毛・ヒゲなどの細い線を表現することもできます。

縦横斜めに塗ると、デッサンでいうところの線を集めて濃さを出すような感覚でぼかしも表現できます。その状態で横に筆先を滑らせると、細い線を描くこともできます。こうしたことは和筆の特徴である、「柔らかく膨らみがあり毛先がちゃんとまとまる毛質」でないとできないことです。マンガでは様々な表情の線を描く為に「つけペン」を交換していきますが、まさに同じことが和筆でも活用できるとのこと。近年デジタルによりディスプレイ上で描くことが主流ですが、こうした表現の機敏さを体感しておくことは、将来にとって役に立つと先生はおっしゃいます。

実習の様子

さて、実習がはじまりましたが、描く途中にも先生の指導がどんどんはいります。

  • パレットにはあらかじめ絵具を水で溶かして
    色の水たまりを作っておく。
  • まずは水だけで描いて
    アタリをつけてみる。
  • 手だけでなく、肩から筆を動かすこと。
  • 線を引くときは息をとめるか、
    はきながら。
  • 顔の輪郭線は単純な曲線ではなく、
    様々な角度が重なっていることを意識する。
  • 人の肌は一色だけでは表現できない。
    意外な色も積極的に塗ってみること。
  • 時々、紙を回転させながら、
    無理のない筆運びをしていくこと。

などなど、学生さん達は、先生の言われたことをなんとか実践しようとしながら、少しずつ筆を動かしていきます。
約2時間ほどの実習時間でしたが、慎重になりながらも筆を進めていき、味のある3枚の似顔絵が仕上がりました!

works 01

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
Completion

works 02

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
Completion

works 03

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
Completion

皆さんが最後に手を入れていたのは、一番重要な「目」でした。眼球の位置、立体感を出すだけでもグッと変わってきます。
濃いところ・明るいところの差をつけることで、鑑賞者の目を引きます

水彩絵具と和筆

絵具が透明水彩である理由

アクリル絵具やマーカーなど、一発ではっきりとした色が塗れる画材ではなく、透明水彩絵具をつかうのはどうしてでしょうか?ご存知かもしれませんが、透明水彩は色を重ねて色調を作っていくものであり、ごまかしが利かず、画面に描いたこと全てが結果に反映されるデリケートな絵具です。つまりは描く際のルールがはっきりしていると言えます。透明水彩絵具を通して、色を作る手順をしっかりと理解することが大切だと先生はおっしゃいます。
透明水彩絵具は水をよく使いますが、多用しすぎると薄くなる一方です。色をぼかすにしても水ばかり使うのではなく、先述の筆先を変えながら描き方もコントロールしていくことも大事です。まさに描くバランス感覚を鍛えるための画材といえるのではないでしょうか。

学生さん達にも和筆の描き心地の感想を伺いました。今まで(学校で)使用していた筆は毛が硬く、絵具や水がハネてしまい、どうしても作業がしにくかったそうですが、和筆は一本の筆でも線が自在に描けるとのことで、実際の作業を見ても、やりにくさは特に感じてはいない様子でした。人によっては学校での授業で終わり、美術を学ぶことがなかった方もいらっしゃいますし、和筆を使う経験が一生無い、ということが殆どかもしれません。だからこそ今、様々な筆に触れることを大切にするべき。その経験は、今は分からなくても後から思い出して理解し、活きてくるのだと先生はおっしゃいました。

なぜ水彩筆ではなく、和筆なのか?

先生いわく、例えば価格帯が抑えめのリセーブル・ナイロン毛などは、使っている内に毛先が広がってしまい、描きにくいとのこと。しかし、同じ価格帯でも和筆だと、自然毛でありながらも学生さんから先生・プロまで手に取りやすい価格帯(中には値の張るものもあります)で、毛先の使い方によって、一本の筆から様々な表現ができることから、価格以上の効果を発揮できるのです。リスや自然毛を使った高級水彩筆は価格が結構高い印象があります。
それと、日本人としては是非とも和筆を使ってほしいという想いもあります。中里製の和筆はとても長持ちするという感想もいただきました。

あとがき

というわけで出来上がった似顔絵を職員の皆さんにも見てもらい、今日の特別授業はおしまいです。
田邊先生&学生の皆さん、そして総合学園ヒューマンアカデミー京都校さん、本当にありがとうございました!

たなべ たい(田邊 泰)先生

略歴

1966年
京都市生れ 京都市在住
1990年
京都市立銅駝美術工芸高等学校
西洋画科卒業
1992年
京都精華大学美術学部マンガ分野・卒業
1993年
京都精華大学院諷刺画専攻・修了
2000年
読売国際漫画大賞・近藤日出造賞受賞
2003年
国際アンカラカートゥーン
フェスティバル(トルコ)にて個展
大学2年より漫画家としてデビュー。作品制作の傍らイラスト・似顔絵を執筆。

平成6年より京都精華大学、宝塚造形芸術大学、
関西文化芸術学院、総合学園ヒューマンアカデミーなどで漫画を教える。



公益社団法人 日本漫画家協会 関西支部長

FECO( The Federation of Cartoonist Organizations ) JAPAN会員