筆のお悩み相談 画風や絵具から考える、自分にあった筆選び

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相談の内容

中里さんでは、作家の筆のお悩み相談も聞いてくれます。
今回の相談相手は、京都在住の美術作家・田中加織さん。
とある夏の夜、営業を終えられた中里さんの会社を訪ねました。

田中さんの作品

日本ならではの風景や山・雲海といったモチーフを独特のイメージで構成し、
油絵具でもって一枚の絵に表現する田中さんですが、
所有されている沢山の筆の中でお悩みがあるとのこと。
そのお悩みとは・・・

細い線を描くときに、
毛先がふわっと広がってしまい、
うまくまとまらず描きづらい

水彩絵具の、面相筆や極細の筆のように毛先をコントロールできればいいのですが、
油絵具は粘度があります。画溶液で溶いて描きますが、
油絵で繊細な作業となると、実際同じようなお悩みを持っている作家さんもいるようです。
となると、筆を選ぶということになります。

試して探る最適な筆

まずは田中さん持ち寄りの細筆を何本か中里さんに見てもらいます。

色々な筆で試し描き

持ってきた中では、おそらく馬毛の筆?がまだ使いやすいのかな、ということでしたが、早速中里さんにいろいろ筆を持ってきて頂き、実際に水を含ませながら、描き心地を試していきます。

最適な筆を探る

ナイロン毛の筆がでてきました。(下の写真)
SPERANZA(スペランザ)という黒軸の筆です。ここでちょっとした疑問ですが、ナイロンは油絵具の溶剤にいれるとどうなんだろう?毛が弱いのではないだろうか?と思い、聞いてみましたが、ナイロン毛は実は溶剤に強く、自然毛よりは毛が荒れにくいのだそうで、逆に自然の毛だと石油系の溶剤には弱いということです。それは毛質やお手入れの仕方によっても変わってくるのですが油絵にもナイロンは有効なのだということは一つ勉強になりました。ただし弱点としてナイロン毛は摩擦に弱く、熱でカールするという点もあります。

毛先のまとまりも良く、
田中さんの感触も良し!でした。

上の写真はハードナイロン筆ですが、SPERANZA よりも割と硬い毛になります。
コシは結構強いので、油絵に対しても十分使えそうです。

毛先がまとまるという点で、中里さんが紹介してくれた別の筆が、「CR」シリーズ(上の写真)という水彩筆です。
ふっくらとした毛組みですが、先端がシュッとまとまっていて、描いていても毛先が広がったりしません。「羊毛・馬毛・鹿毛」のブレンドで、日本画用としても使われます。画面への毛の置き方・運び方次第で、塗りから線まで描き操れそうでした。

ところで筆の毛は、他の動物の毛との混毛であるケースが多いですが、
これは、水や絵具の含み・毛のコシ、筆としての性質を調整するためです。
例えば油絵に使われる豚毛のような硬い毛は、含みよりもコシが目立っているように思います。
人によりますが、油絵を描くのに、水彩画のように水を多く使うかの如く、普段から画溶液を沢山含ませるでしょうか。
おそらくそれはあまり無いと考えます。(筆のタッチをも作品のエッセンスにすることもありますし・・・)

あとは、馬毛と豚毛の混毛である、「イミテーションオックス油彩筆」もテスト。
毛のまとまりはもちろん、程よくコシがあります。油絵の軟毛筆として使われます。
イミテーションは「模倣」という意味。
オックスは「牛」を表しますが、筆でいえば使用される部位は耳の毛です。

筆の手入れについて

長く良い品質を保つために

日本画用の自然毛を使っている筆は、絵具を洗えていても毛束の奥底に水分が溜まったままでは、そこから毛腐れを起こし、毛が切れたり抜けたりするということがよくあります。洗ったあとはしっかりと水分を取り、毛を下にして逆さまの状態で吊し干しにするのが基本です。洗濯はさみや筆の紐で吊るすと良いでしょう。また、石鹸などで絵具を洗うにしても、人の髪の毛と同じで過度に洗いすぎると、毛の本来の油分をも取り去ってしまいパサパサになってしまいます。ある程度洗ったあとは、筆用のリンスで毛を整えてあげましょう。(人の頭に使うリンスは特殊なので筆用のリンスをお使いください)

あとがき(相談の結果)

というわけで、いろいろ試させてもらった結果、
「CR 水彩筆」「SPERANZA 長軸ラウンド」「イミテーションオックス油彩筆」を選びました!
田中さん、ご自身の感触に合いましたでしょうか?
まさに筆のテイスティング。中里さん、遅くまで本当にありがとうございました。

中里さんの会社で直接筆を購入することはできません!
小売はやっておられないので、ご購入・お取り寄せについては画箋堂にて、宜しくお願いします!!