日本画の歴史を支え続ける麻の紙

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麻紙の歴史

〜平安時代

大昔、平安時代の頃から中国より麻紙(現在の麻紙とは製法の異なるもの)が入ってくるが、この製法は途絶える。麻紙のない頃は、日本画は紙ではなく、絵絹(えぎぬ)という絹に描いていました。

大正時代

大正の初めごろ、製紙家の岩野平三郎が麻紙の抄造を着手。(当時から麻の原料処理は難しいとされていました。)

大正15年5月17日、岩野平三郎の試作品麻紙の第一号を、横山大観や竹内栖鳳らに送っています。

大正の前半、高知県の製紙家・中田鹿次が、明治天皇・昭憲皇后の実績を描いた複数の絵画を展示するための施設【聖徳記念絵画館】の壁画用紙を担当することになり、日本画用の紙の抄造に着手しました。

【聖徳記念絵画館】の壁画用紙の基底材は、湿気の強さと優れた耐久性を考慮した結果、絵絹ではなく、紙が選ばれ、大正13年11月に中田鹿次が【神宮紙】という紙を完成させています。楮100%の和紙です。

現代〜

高知麻紙は尾﨑製紙所さんにより生産され、多くの作家に愛され続けています。

日本画は、岩絵具を使用するため、通常の絵具のように塗り広げるというよりかは、色を乗せていくという感覚です。よって絵具自体が重たくなり、基底材はより耐久性のあるものでないと紙が耐えられないことになります。和紙・麻紙が普及していたのは、こういった厚塗りに対する要望もあったのだろうと推測されます。

麻紙の特徴

高知麻紙の風合いを生み出す要素

まず、和紙の原料として 楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)が存在します。
原料によって、繊維の大きさと長さ、形状に特長があります。
繊維の形状は大まかに分けると、楮と三椏は円・楕円形に近く、対して雁皮は平たい形に近くなっています。
※ 雁皮の紙が表面がキラキラしているのは、繊維が平らな形に近い為に光が反射しているからです。

ところが、麻の繊維はうねうねとした形状でクセがあり、とても扱いづらい原料なのです。
さらに紙を作る上で必要な【叩解(こうかい):繊維の束をつぶして揉み合わせて、繊維をからみやすくさせる】
という作業を経て、麻の繊維はさらに毛が開いた状態になり、クセが強くなります。

しかしこの麻のクセのある特徴が、今日の高知麻紙の風合いを作り出しています。
繊維がうねっているために、まるでフェルトのようにふわっとなる紙質と厚みを得ることができます。

麻紙の原料

高知麻紙の原料:麻

上でも述べていますが、和紙の原料には楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)が用いられます。高知麻紙の原料は麻だけでなく、麻に楮(こうぞ)を加えて作られています。麻の繊維は、複雑なうねった形をしているため、麻だけでは繊維同士がからんで固まってしまい、そのままでは紙としては弱く、抜けていきます。
高知麻紙は、麻に楮の質感をプラスすることで、紙の強度が増し、紙の表面がなだらかになります。高知麻紙の老舗 尾崎製紙所さんでは、高知県の製紙家 中田鹿次が開発した【神宮紙】を現代によみがえらせて販売をしています。楮100%であり、強度は高知麻紙よりも高く、大作用として大変優れています。

麻紙ができるまで

原料の下処理

尾崎製紙所さんに、麻紙ができるまでの大まかな期間をお聞きしました。まず最も時間をかける工程が、『原料の下処理』ということです。入荷された原料をそのまま使うことはできないので、薬品や灰(ソーダ灰)で煮た後、二晩ほど流水に晒し、薬品を取り除きます。それから、繊維のごみを取り除きますが、この作業は全てスタッフの皆様の手作業となります。 一人ではとても取り除くことはできないので、時には5人がかりで時間をかけます。

楮 - こうぞ
  • 楮のゴミ取り
  • 麻のゴミ取り

原料の選定

もともとあった原料は選定され、当然減っていきます。量があっても、最終的には手ですこしつかめるくらいしか残らない、それくらい厳しく、地道にチェックされます。ここまででだいたい一週間以上はかかります。後に、叩解(✳︎1)・打解、糊を混ぜ、紙を漉き、乾燥台にのせる作業を含め、スタートから耳付きの3m × 4mの原紙ができるまでがおおよそ15日間です。お話を聞くと、紙ができるまでに、いかに原料の選定に時間をかけ、重要視されているかが伺えます。
現在、高知麻紙の糊分にはとろろあおいではなく人口糊を使用しています。土佐楮100%使用した同社製品「神宮紙」にはとろろあおいを使用しています。

  • のり - とろろあおい
  • 紙の乾燥

断裁・ドーサ引き

高知麻紙の特徴は、100号用・S100号用・3/6判など、さまざまなサイズの販売をされているということです。先述の3m × 4mの原紙を、紙をきる包丁で切っていきます。さらにドーサ引きの場合は、熟練の職人さんが絶妙なドーサ濃度で、裏表2度引きの作業をされます。

  • 断裁
  • ドーサ引き

かつて真夏の時期に尾崎製紙所様の会社に見学に伺いましたが、このドーサ引きの作業場は空調もいれずに暑い中、職人さんが手作業で刷毛でドーサを引いておられた姿が印象に残っています。

  • 完成した高知麻紙

※ 1:叩解(こうかい) 繊維の束をつぶして揉み合わせて、毛を開いた状態にすること。繊維をからみやすくするための作業

描画例

胡粉の魅力

尾崎製紙所で生産されている高知麻紙は店頭、または下記からご購入いただけます。
尾崎製紙所様の営業再開に伴い、商品の取り扱いを再開いたしました(2016.11.30)

ご協力くださった先生(五十音順)

久野 隆史(くの たかし)先生

略歴

1966年
京都市に生まれる
1990年
京都芸術短期大学(現 京都造形芸術大学)専攻科日本画コース修了
以後 個展を中心に発表
1992年
臥龍桜展(岐阜)
1993年
ビエンナーレ京都(京都文化博物館)
2000年
NEXT展(京都高島屋)
2003年
第22回損保ジャパン美術財団選抜奨励展(東郷青児美術館)
2008年
第1回 The NIHONGA展〜伝統と創造〜(京都文化博物館)
2009年
「3つの平面」 久野隆史・神内康年・田中千世子(ギャラリー門馬/札幌)
2010年
ギャラリーマロニエ(京都)
2014年
カホ・ギャラリー(京都)
2015年
閑々居(東京)/ 同 06年・09年・13年
京都愛宕神社復元大絵馬奉納
蔵丘洞画廊(京都)/ 同 11年、13
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三上 知佐子(みかみ ちさこ) 先生

略歴

1998年
京都市立芸術大学 美術学部 卒業
1999年
京展 入選 / 同 01年
2000年
京都市立芸術大学 大学院 美術研究科 修士課程修了
2002年
日春展 入選 / 同 06年・10年

美術教室クレエのご案内

クレエ絵画教室について

画箋堂の「画箋堂美術教室 クレエ」では、洋画・日本画・水彩画・木版画・写真と幅広い講座を開催しております。今回ご協力くださった、久野隆史先生、三上知佐子先生による日本画やスケッチの講座もございます!長く楽しく続けていただけるよう、ひとりひとりの目的やペースに合わせて、自由に学べるようプロの講師が指導しています。作品づくりにご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。